3人目の母
30年ほど前に私はもうすぐ12歳になる息子を連れての再婚である夫と結婚し、同時に3人の母を持つことになりました。
一人目は私を産んでくれた母、二人目は夫の母である義母。
夫の先妻の母親が私にとっての3人目の母となったのです。
先妻は私と夫が出会う数年前に他界していて私とは面識が全くありません。
自分が継母になるという形のステップファミリーを選んだ私の結婚生活は初めから困難の連続でした。
まだまだ未熟な、子育てなどしたこともない私が夫の息子の母親役を務めようとしているのですから今考えると無理はありません。
そのうえ力になってくれると信じて結婚した夫は息子のことにはまるで無関心でしたし、私が息子と信頼関係を築こうとしている中で生まれる悩みにも他人事のように全く無関心なのでした。
何より私を一番悩ませたのは夫の母親でした。孫のことや息子である夫を何かというとお金や物で解決しようとするやり方が私は嫌いでした。
夫よりも13歳も若かった私に可愛い孫を任せたくは無い気持ちもあったのでしょう。無神経な発言や意地悪をするばかりで、それでいて私の力になろうとはしてくれないのでした。
結婚から4年ほど経った頃、継子が自宅に引きこもるようになりその状態が10年ほど続いたでしょうか。それはそれは私にとって地獄のように苦しい日々でした。
継子と父親である夫との関係は非常に冷たいもので、息子が部屋に引きこもるようになっても夫の家庭への無関心さは変わることは無く、毎日朝夕訪れる姑は私を責めるばかり。
そんな中私と一緒に悩み、策を練ってくれたのは3人目の母である○さんでした。
◯さん自身早くに離婚され貧しい生活の中、どうにか自分の店を持ち一人娘を育てあげたらしく、「仕事に忙しくて娘には幼い頃からかまってあげられず、私はあまりいい母親ではなかった」と時々何かを白状するように私に言っていました。
そんな気持ちもあってか娘が残したたった一人の肉親である孫の引きこもりの状態を少しでも良くしたいと願ったのでしょう。
継子のことや子育てのこと、夫や姑のこと、私の悩みにはいつも真剣に耳を傾け時には笑い飛ばしてくれたり一緒に共感してくれたりと、◯さんは私にとって辛い気持ちの逃げ場のような大きな存在で居続けてくださいました。
明るくて強くて厳しいけれども優しい、外見も綺麗な◯さんと時々「デート」と称して二人で気分転換のためにお出かけしたのも楽しい思い出です。
そんなこんなで、出口の見えないトンネルの中をずっと歩いているような辛く長い日々が続きましたが、それはある日突然にと言っても過言ではないくらいに継子が生き生きとした表情で外に出だしたのです。
◯さんと私は喜んでさらに継子が新たな1歩を踏み出せるようにいろいろな仕掛けを考えました。仕掛け…結局は愛情をしっかりと継子に伝えるということなのですが、外に出だした継子にとって必要なサポートは可能な限りやってあげようという策でした。
◯さんと私は素知らぬ顔をしながら常に継子を見守っていましたが、再び引きこもる事は無く元の性格の明るさを取り戻したのです。
ホッとしたのも数年で3人の母のうち一番先に◯さんが病気のために亡くなってしまいました。
それから10年が過ぎ、継子をはじめ3人の息子たちは私の大切な宝物であることに変わりありませんが、私は30年近く続いた夫との結婚生活を終わらせる決断をしました。
3人目の母であった◯さんが今もし生きていたならいろいろ相談に乗ってもらえたでしょうし、きっと「今まで頑張ったね、幸せに暮らしなさい」と私の決断を応援してくれただろうと思います。
幼い頃から「悩みや苦しんでいることを誰かに相談する」という経験を積んでこなかった私にとって、軽くはない悩みを洗いざらい打ち明けることができた◯さんとの出会いは貴重でした。
また、継子である長男は誰よりも私や弟たちのことを考えてくれる優しい大人になり、家族の中で一番頼りがいのある存在になってくれました。
彼が引きこもっていた10年は私の産んだ二人の息子の子育ての時期とも重なりとても難しく辛いことも多かったですが学ぶことも多く、長男との信頼関係、◯さんとの交流を深めることができた貴重な日々でした。
どんな辛い出来事にも後から振り返ると意味があるものですね…。
一人目の母には弱音や本音を言えず、二人目の母にはいじめられた私ですが、洗いざらいの悩みを打ち明けることのできる3人目の母がいてくれたおかげでこの結婚での窮地を乗り越えることができましたしそれによって揺るがない継子との信頼関係を得ることができたのです。
私は夫と結婚しましたが、実はその子どもである長男や◯さんとの出会いにこそ深い意味、ご縁があったのかもしれません。
約半年前に悩んだ末に夫とは離婚することになった私ですが、この結婚で私はたくさんの事を学ばせてもらいましたし本当に感謝しています。
さて、その経験を経て残された私の人生をどう生きていくべきか…。
…とかなんとか、カッコいいことを言っても実際には忙しい毎日に振り回されながら日々が過ぎていくのでしょうね。
良いことにも悪いことにも起きることには意味がある、ということだけは忘れずに日々を大切にしてドタバタと生きていこうと思っています。
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